• 2026年9月26日
  • 2026年9月2日

糖尿病の薬が心臓と腎臓を守る?SGLT2阻害薬の効果と注意点

「先生、この薬は糖尿病の薬ですよね? 私は糖尿病ではないのですが、なぜ飲むのですか?」

心不全の患者さんに「フォシーガ」や「ジャディアンス」を処方すると、このような質問を受けることがあります。

実はSGLT2阻害薬は、この10年ほどで位置づけが大きく変わった薬の一つです。もともとは血糖値を下げる糖尿病治療薬として登場しましたが、現在では心臓や腎臓を守る薬としても非常に重要になっています。

SGLT2阻害薬とは?「尿に糖を出す」薬

腎臓では、血液から一度こし出されたブドウ糖のほとんどを再び体内へ戻しています。この糖の回収に関わっているのが「SGLT2」というタンパク質です。

SGLT2阻害薬はこの働きを抑え、余分な糖を尿と一緒に体外へ排泄します。糖だけでなくナトリウムや水分の排泄にも影響するため、血糖値を下げるだけでなく、血圧や体液量、心臓や腎臓への負担にも良い影響を与えると考えられています。

「糖尿病・心不全・腎臓病」の3つに使われる薬へ

現在、日本国内でSGLT2阻害薬が重要な役割を担っているのは、主に糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病(CKD)という3つの病気です。

そして、この3領域すべてに国内で適応を持っているSGLT2阻害薬が、

ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)
エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)

です。

フォシーガは2型糖尿病に加えて一定条件下の1型糖尿病にも適応があります。一方、ジャディアンスの糖尿病領域の適応は2型糖尿病です。両剤とも慢性心不全と慢性腎臓病に適応を持っています。

つまり、「糖尿病の薬を心不全患者さんに使っている」のではなく、現在では心不全そのもの、慢性腎臓病そのものを治療する薬として使用しているという理解が適切です。

なぜ心不全に効くの?

心不全では、心臓が十分に血液を送り出せなくなったり、体内に水分がたまったりすることで、息切れやむくみが生じます。

SGLT2阻害薬は体内の余分な水分やナトリウムの排泄に関係するだけでなく、心臓や腎臓にさまざまな好影響を与え、心不全による入院などを減らすことが示されています。

特に重要なのは、その効果が糖尿病患者さんだけに限られないことです。糖尿病がない心不全患者さんにも使用され、現在の心不全治療では重要な薬の一つとなっています。また、心臓の収縮力が低下した心不全だけでなく、収縮力が比較的保たれているタイプの心不全にも有用性が示されています。

腎臓を守る効果も

腎臓には「糸球体」という小さなフィルターがあります。慢性腎臓病では、このフィルターに長期間負担がかかることが腎機能悪化につながります。

SGLT2阻害薬は糸球体にかかる過剰な圧力を和らげ、腎機能低下の進行を遅らせる方向に働きます。そのため現在では、糖尿病を合併していない慢性腎臓病患者さんにも、病態に応じて使用されています。

飲み始めにeGFRが一時的に少し低下することがありますが、必ずしも「薬で腎臓が悪くなった」という意味ではありません。腎機能、血圧、脱水の有無などをみながら経過を確認することが大切です。

「やせる薬」なの?体重への影響

「SGLT2阻害薬を飲むとやせると聞きました」という質問もよくあります。

糖を尿中へ排泄するということは、その分のエネルギーを体外へ捨てることになるため、体重が減少することがあります。また服用開始直後には、水分が排泄されることによる体重減少も加わります。

ただし、SGLT2阻害薬は肥満を治療するための“やせ薬”ではありません。体重減少の程度には個人差があり、食事量が増えれば効果は小さくなります。

特に高齢者では、「体重が減った」と喜んでいたら筋肉まで減っていた、ということもあります。サルコペニアやフレイルを防ぐためにも、体重だけではなく筋肉量や食事内容、運動習慣を見ることが重要です。

最も知ってほしい「シックデイ」の注意

SGLT2阻害薬を服用している方に、ぜひ覚えていただきたい言葉があります。

「シックデイ」です。

発熱、感染症、嘔吐、下痢などで体調を崩し、食事や水分が十分に取れなくなった状態をシックデイと呼びます。

この状態でSGLT2阻害薬を続けると、脱水だけでなく、まれながらケトアシドーシスという重篤な状態を起こすことがあります。

特に注意が必要なのは、SGLT2阻害薬によるケトアシドーシスでは、血糖値がそれほど高くない場合があることです。「血糖値が高くないから大丈夫」とは限りません。吐き気、嘔吐、腹痛、強い倦怠感、異常な口渇、息苦しさなどがあれば、速やかな医療機関への相談が必要です。

発熱、嘔吐、下痢などで食べられない・飲めない状態になった場合には、原則としてSGLT2阻害薬をいったん休薬し、主治医へ相談することが大切です。予定された手術や長時間の絶食についても事前に主治医へ確認してください。

尿路感染症・性器感染症にも注意

SGLT2阻害薬では尿中の糖が増えるため、膀胱炎などの尿路感染症や性器感染症にも注意する必要があります。

排尿時の痛み、頻尿、尿の濁り、陰部のかゆみ・痛みなどがあれば早めに相談してください。さらに発熱、悪寒、背中や腰の痛みを伴う場合には、腎盂腎炎など重い感染症の可能性もあります。

また尿量が増えることがあるため、高齢者、夏場、利尿薬を使用している心不全患者さんでは脱水や血圧低下にも注意します。

SGLT2阻害薬は「臓器を守る薬」へ

SGLT2阻害薬は、「血糖値を下げる糖尿病薬」という枠を大きく超えました。

現在では、

糖尿病 → 血糖管理
心不全 → 心不全悪化・入院リスクを減らす
慢性腎臓病 → 腎機能低下を抑える

という、複数の臓器をまたいだ治療薬になっています。

特にフォシーガとジャディアンスは、糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病という3領域すべてに国内で適応を持ち、循環器診療でも使用する機会が非常に増えています。

一方で、SGLT2阻害薬は「誰にでも飲んでもらえばよい薬」ではありません。腎機能、血圧、体液量、年齢、利尿薬の使用状況、感染症の有無などを総合的に判断する必要があります。

そして服用している方には、ぜひ一つ覚えておいていただきたいと思います。

「元気なときの薬の飲み方」だけではなく、「食べられないほど体調が悪いときの薬の飲み方」まで主治医と確認しておく。

これがSGLT2阻害薬を安全に、そして長く心臓と腎臓を守るために使う大切なポイントです。

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