• 2026年8月22日
  • 2026年8月16日

睡眠時無呼吸と心臓の意外な関係―夜間頻尿・動悸・息切れもサインかもしれません

「夜中に何度もトイレに起きる」
「朝の血圧が高い」
「日中に動悸や息切れを感じる」

これらを、それぞれ別の問題だと思っていませんか。

実は、その背景に睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れていることがあります。

睡眠時無呼吸症候群というと、「大きないびき」「寝ている間に呼吸が止まる」「日中に眠い」といった症状がよく知られています。しかし循環器診療の現場では、むしろ高血圧、不整脈、夜間頻尿、動悸、息切れなどをきっかけに睡眠時無呼吸が見つかることがあります。

眠っている間、自律神経はどうなっているのでしょうか?

睡眠時無呼吸症候群が心臓に負担をかける理由を理解するうえで、重要なのが自律神経です。

自律神経には、大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」があります。

交感神経は、運動するときや緊張したときに働く、いわばアクセルのような神経です。心拍数を増やし、血管を収縮させ、血圧を上げます。

一方、副交感神経は、体を休ませるブレーキのような役割をしています。

健康な人では、夜になって眠りにつくと交感神経の働きが弱まり、副交感神経が優位になります。その結果、心拍数や血圧が下がり、心臓も休息することができます。

ところが、睡眠時無呼吸があると、この自然なリズムが何度も崩されます。

流れを順番に見てみましょう。

①眠りにつく

②気道が狭くなり、呼吸が止まる・浅くなる

③血液中の酸素が低下する

④脳が「このままでは危険」と判断する

⑤交感神経が急激に活性化する

⑥血圧が上がり、脈が速くなる

⑦脳が一瞬覚醒して呼吸を再開する

⑧再び眠る

⑨また無呼吸が起こる

このサイクルが、一晩に何十回、重症の場合には何百回と繰り返されることがあります。

つまり、本人は「一晩寝た」と思っていても、体の中ではそのたびにアクセルを踏み込むような反応が起きているのです。

「夜は休む時間」なのに、心臓は緊張を繰り返しています

本来、睡眠中は血圧も脈拍も下がり、心臓が休む時間です。

しかし睡眠時無呼吸では、無呼吸のたびに交感神経が刺激されます。

呼吸が再開する瞬間には、血圧や心拍数が急激に上昇することがあります。これが夜通し繰り返されるため、心臓や血管にとっては、休んでいるはずの時間に何度も急な負荷をかけられている状態になります。

さらに重要なのは、この交感神経の過剰な働きが、必ずしも朝になれば完全に元へ戻るわけではないということです。

睡眠時無呼吸が続くと、自律神経のバランスそのものが乱れ、日中にも交感神経が高ぶった状態が残ることがあります。

その結果、

  • 朝の血圧が高い
  • 脈が速く感じる
  • 突然ドキドキする
  • 動悸を感じる
  • 少し動くだけで息苦しい
  • 胸が締めつけられるように感じる

といった症状につながる場合があります。

「寝ている間の病気なのに、なぜ昼間に症状があるのだろう?」

という疑問は、この自律神経の乱れが夜から昼まで持ち越されることがあると考えると理解しやすくなります。

「朝の血圧が高い」は睡眠からのサインかも

通常、血圧は睡眠中にある程度低下します。

しかし睡眠時無呼吸があると、無呼吸のたびに血圧が上昇し、夜になっても十分に血圧が下がらないことがあります。睡眠時無呼吸では夜間高血圧や朝の高血圧がみられやすいことも報告されています。

そのため、

「病院ではそれほど高くないのに朝の家庭血圧が高い」
「薬を飲んでいるのに血圧が安定しない」

という方では、睡眠時無呼吸が背景にないかを考えることがあります。

高血圧だけを治療していても、その背景に睡眠時無呼吸があれば、心臓や血管は夜間も繰り返し負担を受けている可能性があります。

夜中に何度もトイレへ――膀胱だけの問題ではありません

もう一つ、意外と見逃されやすいのが夜間頻尿です。

「年齢のせいで夜中に2回、3回とトイレに起きる」と思っている方は多いのですが、睡眠時無呼吸が関係している場合があります。

無呼吸のときには、空気を吸おうとして胸の中の圧力が大きく下がります。その影響で心房が引き伸ばされると、**心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)**という尿を増やす方向に働くホルモンの分泌が促され、夜間の尿量が増えると考えられています。

さらに、順番が逆の場合もあります。

「尿意で目が覚めた」と思っていても、実際には無呼吸で睡眠が浅くなって目が覚め、そのついでにトイレへ行っていることもあります。

つまり夜間頻尿は、前立腺や膀胱だけの問題とは限りません。実際、睡眠時無呼吸に対するCPAP治療によって夜間頻尿が減少することも報告されています。

日中の動悸・息切れ・胸痛と睡眠時無呼吸

「睡眠の病気なのに、なぜ昼間に心臓の症状が出るの?」

と思われるかもしれません。

睡眠時無呼吸による交感神経の過剰な働き、夜間の酸素低下、血圧の変動などは心臓に負担をかけます。睡眠時無呼吸は、高血圧だけでなく、心房細動などの不整脈、心不全、冠動脈疾患などとも関連しています。

特に不整脈については、睡眠中の呼吸障害そのものが心房性・心室性不整脈を誘発し得ることが示されています。

そのため、

「突然ドキドキする」
「脈が乱れる」
「少し歩いただけで息切れする」
「胸が重い、違和感がある」

といった症状を調べていく中で、睡眠時無呼吸が見つかることがあります。

ただし、ここは大切な点です。

動悸・息切れ・胸痛を「睡眠時無呼吸のせいだろう」と自己判断してはいけません。

狭心症、心不全、不整脈など治療が必要な心臓病そのものが隠れている可能性があります。こうした症状が続く場合には、まず循環器内科で心臓を評価することが重要です。

「眠い人だけ」の病気ではありません

睡眠時無呼吸は、典型的ないびきや強い日中の眠気があれば気づきやすい病気です。

しかし、睡眠時無呼吸があっても本人が強い眠気を自覚していないケースがあります。特に循環器診療では、「眠いかどうか」だけで睡眠時無呼吸を判断することはできません。心房細動など心血管疾患を持つ患者さんでは睡眠呼吸障害が見逃されやすいことも問題となっています。

循環器内科の立場からは、

  • 夜中に何度もトイレへ行く
  • 夜中に何度も目が覚める
  • 朝の血圧が高い
  • 高血圧がなかなか安定しない
  • 夜間や早朝に動悸がある
  • 心房細動を繰り返している

といった症状も、**「一度、睡眠を調べてみよう」**と考えるきっかけになります。

一見ばらばらの症状を「睡眠」でつないで考える

睡眠時無呼吸の検査は、自宅で行える簡易検査から始めることができます。

「よく眠れているかどうか」は、単に眠気や疲労の問題ではありません。

循環器医の立場からみれば、もう一つ大切なのは、

「眠っている間に、心臓がきちんと休めているか」

という視点です。

夜中のトイレ、朝の高血圧、日中の動悸や息切れ――。

一見ばらばらに見える症状が、実は睡眠時無呼吸症候群という一本の線でつながっていることがあります。

「年齢のせい」
「疲れているだけ」
「夜中にトイレへ行くのは仕方がない」

と決めつけず、こうした症状がいくつか重なる場合には、睡眠時無呼吸症候群という視点からも一度確認してみましょう。

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