• 2026年8月29日
  • 2026年8月16日

心臓病の人にもおすすめしたい「ストレッチ」―血流改善から転倒予防まで

「運動したほうがいいのは分かっているけれど、なかなか時間がない」

診察室でもよく聞く言葉です。しかし、運動というとウォーキングや筋力トレーニングばかりを思い浮かべて、「体を柔らかく保つこと」は意外と忘れられています。

実際には、運動不足の方だけでなく、デスクワークが長い方、車での移動が多い方、毎日忙しく過ごしている方ほど、知らないうちに肩や股関節が動きにくくなっています。

今回は、ストレッチの効果、心臓や血管との関係、肩こり・背部痛・胸痛、そして転倒予防について循環器内科の立場からお話しします。

ストレッチは「体を柔らかくするだけ」ではありません

ストレッチの大きな目的は、筋肉の伸展性を保ち、関節を動かせる範囲、つまり「可動域」を維持することです。継続的なストレッチによって柔軟性や関節可動域が改善することが知られています。

体が硬くなると、本来動くはずの関節が十分に動かず、別の筋肉や関節がその動きを補わなければなりません。その結果、肩こりや腰痛、背部痛につながったり、「歩幅が狭くなる」「足が上がりにくい」といった変化が起こったりします。

ですからストレッチは、スポーツをする人だけのものではありません。むしろ、普段あまり運動をしない人ほど必要な習慣と考えてよいでしょう。

ストレッチは血管にもよい影響を与える?

ストレッチというと筋肉や関節だけの運動と思われがちですが、近年は血管への作用にも注目されています。

筋肉をゆっくり伸ばすと、その中を通っている血管にも物理的な刺激が加わります。伸ばして緩める動作を繰り返すことで血流にも変化が生じます。

これまでの研究では、ストレッチによって動脈の硬さ(動脈スティフネス)が低下したり、血管内皮機能が改善したりする可能性が報告されています。12週間のストレッチを行った研究でも、血管機能の改善と動脈の硬さの低下が認められています。

ただし、「ストレッチだけで血圧や動脈硬化が治る」という意味ではありません。ウォーキングなどの有酸素運動や筋力トレーニングも心血管の健康には重要です。

「歩く・筋肉をつける・柔軟性を保つ」

この3つを組み合わせることが、年齢を重ねても動きやすい体を保つポイントです。

循環器外来で意外と多い「肩からくる胸の痛み」

循環器内科には「胸が痛い」「背中が痛い」という理由で多くの患者さんが受診されます。

もちろん胸痛では、まず狭心症などの心臓病を見逃さないことが重要です。狭心症では胸の圧迫感だけでなく、肩、腕、首、顎、背中などに症状が広がることもあります。

一方、検査をしてみると心臓に異常がなく、肩関節や肩甲骨周囲、胸の筋肉の硬さが症状に関係していると思われる患者さんも少なくありません。

特にパソコンやスマートフォンを長時間使っていると、肩が前に入り、背中が丸くなりがちです。その状態が続けば、胸の前の筋肉や肩甲骨周囲の筋肉に負担がかかります。

おすすめなのは、

  • 両手を後ろで組み、胸をゆっくり開く
  • 壁や柱に手を当て、胸の前を伸ばす
  • 肩甲骨を後ろに寄せるように胸を張る
  • 両腕をゆっくり上げ、肩関節を大きく動かす

といった簡単な動きです。

反動をつけず、「痛いところまで」ではなく「気持ちよく伸びるところまで」。20~30秒程度を目安に、呼吸を止めずに行ってみてください。

ただし、新しく出現した胸痛や、歩行・階段などで起こる胸痛、冷汗や息苦しさを伴う胸痛を「肩こりだろう」と自己判断するのは危険です。こうした場合は循環器内科での評価が必要です。

股関節が硬くなると「転びやすい体」に

もう一つ意識していただきたいのが股関節です。

年齢とともに歩幅が狭くなったという方は少なくありません。股関節や足首が硬くなり、さらに太ももやお尻の筋力が低下すると、とっさの一歩が出しにくくなります。

高齢者の転倒予防には、柔軟性だけではなく、下肢筋力とバランス能力を一緒に維持することが大切です。高齢者の身体活動でも、有酸素運動に加えて筋力運動やバランス運動を組み合わせることが推奨されています。

そのため、

①股関節を伸ばす
②太ももの裏・ふくらはぎを伸ばす
③椅子から立つ運動(スクワット)を行う
④安全な場所で片脚立ちなどのバランス練習をする

という組み合わせがおすすめです。

ストレッチだけでなく筋力も保つことが、いつまでも自分の足で歩くためには重要です。

「運動する時間がない人」こそ、1日5分から

ストレッチのよいところは、スポーツウェアに着替えたり、外出したりする必要がないことです。

朝起きたとき、テレビを見ながら、お風呂上がり、仕事の合間――数分でも構いません。

「週末にまとめて頑張る」より、毎日の生活の中に少しずつ組み込むことをおすすめします。

心臓の健康というと、血圧、コレステロール、ウォーキングなどに目が向きがちです。しかし、年齢を重ねても元気に生活するためには、心臓だけでなく**「動ける体を保つこと」**が欠かせません。

今日、両腕を頭の上まで上げてみてください。
肩は耳の横まで上がるでしょうか。

次に、椅子から立ち上がり、少し大股で歩いてみてください。
股関節は十分に動いているでしょうか。

「以前より体が硬くなったな」と感じたら、それがストレッチを始めるタイミングです。

筋肉を伸ばし、関節を動かし、そして歩く。

毎日の小さな習慣が、肩こりや腰痛の予防だけでなく、血管の健康、転倒予防、そしていつまでも自分の足で生活するための土台になります。

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