• 2026年9月12日
  • 2026年9月2日

「もしもの時」ではなく「これから」のために――循環器医と考える人生会議

「人生会議」という言葉を聞いたことがありますか?

「まだ元気なのに、最期のことを考えるの?」
「延命治療をするかどうか決める話でしょう?」

そう思われる方もいるかもしれません。しかし、人生会議は決して“死ぬための準備”ではありません。むしろ、これからの人生を自分らしく生きるための話し合いです。

人生会議は、英語ではACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)と呼ばれます。自分が大切にしていること、これからどのように暮らしたいか、そして将来病気が進んだときにどのような医療やケアを受けたいかを、家族や医療・介護に関わる人たちと前もって話し合い、共有していく取り組みです。厚生労働省も人生会議を推進しています。

人生会議は「治療をする・しない」を決める会議ではありません

人生会議というと、「人工呼吸器をつけるか」「心肺蘇生をするか」といった重い選択を想像しがちです。

もちろん、それらも将来話題になることがあります。しかし、本当に大切なのはもっと手前にある、「自分は何を大切にして生きたいのか」という部分です。

たとえば、

「できるだけ自宅で妻と暮らしたい」
「多少息切れがあっても、自分で買い物に行ける生活を続けたい」
「孫の結婚式までは元気でいたい」
「家族に大きな負担をかけたくない」
「可能な治療は積極的に受けたい」

こうした思いはすべて人生会議の大切なテーマです。

つまり、病気の話から始めなくても構いません。「これから何をしたいか」「何を大切にしたいか」から始めることが人生会議の第一歩なのです。

なぜ循環器疾患で人生会議が大切なのでしょうか?

高血圧や脂質異常症などは長く付き合っていく病気です。また、心不全、狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、不整脈などでは、元気に生活していても突然状態が悪化することがあります。

心不全では、治療によって元気になったあと、再び悪化して入院し、また回復するという経過を繰り返すことも少なくありません。そのため、十分に元気な時期から、

「どこまで自分で生活したいか」
「入院が必要になったらどうしたいか」
「通院が難しくなったら在宅診療を希望するか」
「自分で意思を伝えられなくなったら、誰に代わりに考えてほしいか」

といったことを少しずつ話しておく意味があります。

大切なのは、一度決めたら変更できないわけではないということです。人の考えは、年齢、病状、家族環境によって変わります。人生会議では、その時々の気持ちに合わせて何度でも話し合ってよいのです。

健康寿命を延ばすことも「人生会議」の一部です

私たち循環器医が人生会議を考えるとき、「人生の最終段階」だけを見ているわけではありません。

その前にまず大切なのは、健康寿命をできるだけ長くすることです。

血圧やコレステロールの管理、適切な運動、心臓リハビリテーション、食事や体重の管理、睡眠時無呼吸症候群の治療などを通じて、心筋梗塞や脳卒中、心不全を予防する。病気があっても筋力や体力を維持し、自分の足で歩き、自分のことを自分でできる期間を長くする。

「いつまでも畑仕事を続けたい」
「旅行に行きたい」
「自分で車を運転して買い物に行きたい」

そうした希望をお聞きし、その実現のために治療を考えることも、広い意味では「その人らしい人生を支える医療」です。

病院からクリニック、そして在宅へ――地域連携が支えます

病気の状態によって必要な医療の場所は変わります。

高度な検査や治療が必要なときは基幹病院、安定した時期は地域のクリニック、通院が難しくなれば在宅診療というように、患者さんの状態に合わせて医療をつないでいく必要があります。

そこで重要になるのが地域連携とチーム医療です。

循環器医だけでなく、かかりつけ医、在宅診療医、訪問看護師、薬剤師、リハビリスタッフ、管理栄養士、ケアマネジャー、介護スタッフなどが情報を共有し、患者さんとご家族を支えていきます。

その中心にあるべきなのは、検査値や病名だけではありません。

「この患者さんは何を大切にしているのか」

という情報です。

人生会議によってその思いが共有されていれば、診療する場所が病院からクリニック、そして自宅へ変わっても、一貫した医療やケアを行いやすくなります。

まずは「大切にしていること」を話してみませんか?

人生会議に、決まった年齢はありません。

そして今日、すべてを決める必要もありません。

まずは家族との会話の中で、

「もし病気になっても、できるだけ家で暮らしたいな」
「自分が話せなくなったら、あなたに相談してほしい」
「できるだけ自分で歩ける生活を続けたい」

そんな一言を話してみるだけでも十分です。

診察室でも、「先生、将来のことを少し相談したい」と声をかけていただいて構いません。

医療は、単に病気を治すためだけにあるのではありません。その人が大切にしている生活を、できるだけ長く支えることも医療の大切な役割だと私たちは考えています。

人生会議(ACP)は、「最期をどうするか」を決めるためだけのものではありません。

これから何を大切にして生きていきたいのか。
その思いを、家族や医療者と共有するための時間です。

元気な今だからこそ、一度ご自身の「これから」について考えてみてはいかがでしょうか。

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