- 2026年7月18日
- 2026年7月19日
心臓病でも旅行は楽しめます
循環器専門医が伝えたい「頑張り過ぎない旅」のすすめ
「先生、旅行へ行っても大丈夫でしょうか?」
診察室で患者さんからよく受ける質問の一つです。
心臓病と診断されると、「旅行は控えた方がいいのでしょうか」と心配になる方も少なくありません。しかし、多くの患者さんは病状が安定していれば旅行を楽しむことができます。
一方で、旅行では普段の生活とは大きく環境が変わります。
観光地を一日中歩き回る、普段は上らない階段や坂道を歩く、重いスーツケースを運ぶ、塩分の多い外食が続く、利尿薬を飲むタイミングやトイレに悩むなど、小さな負担が一日に何度も重なることが旅行の特徴です。
実際に旅行から帰った後、「息切れが強くなった」「足がむくんだ」「体重が増えてしまった」と受診される患者さんも少なくありません。
今回は、循環器外来で実際によくお話ししている「心臓病患者さんが旅行中に本当に気を付けたいこと」をご紹介します。
旅行へ行く前に「病状が安定しているか」を確認しましょう
旅行先よりも大切なのは、現在の体調です。
最近、
・胸の痛みがある
・息切れが悪化している
・足がむくむ
・体重が急に増えている
・動悸が続いている
このような症状がある場合は、旅行を延期した方が安全なことがあります。
旅行の予定が決まったら、一度主治医へ相談し、「今の状態で旅行しても問題ないか」を確認しておくと安心です。
旅行では「普段以上に歩いてしまう」ことが心臓への負担になります
旅行中は、自分では気付かないうちに普段より何倍も歩いています。
駅や空港での移動、観光地の散策、お寺や神社、お城、美術館、テーマパークなどでは、一日に1万~2万歩以上歩くことも珍しくありません。
さらに、旅行先には坂道や石段、長い階段など、日常生活では経験しないような場所が数多くあります。
診察室でも、
「旅行中は夢中で歩いていたら、帰ってから数日間息切れが続きました。」
「お城の階段を上った後から胸が苦しくなりました。」
というお話をよく伺います。
旅行では「せっかく来たのだから全部見て回りたい」という気持ちになります。しかし、その”頑張り過ぎ”が心臓には大きな負担になります。
旅行では、
・エレベーターやエスカレーターを積極的に利用する
・坂道や階段では無理をしない
・息が上がる前に休憩する
・一日に予定を詰め込み過ぎない
ことを心掛けましょう。
「疲れたら休む」のではなく、「疲れる前に休む」ことが心臓病患者さんの旅行では何より大切です。
重い荷物は想像以上に心臓へ負担をかけます
旅行ではスーツケースやお土産など、普段より重い荷物を持つ機会が増えます。
駅の階段でスーツケースを持ち上げたり、新幹線の荷物棚へ荷物を載せたりする動作では、一瞬で血圧が上昇し、心臓への負担も大きくなります。
「観光は平気だったのに、荷物を運んでいる時だけ苦しくなった」という患者さんも少なくありません。
できるだけ、
・キャリーケースを利用する
・荷物は少なくする
・宅配便を利用する
・お土産は配送サービスを利用する
など、「持たない工夫」をすることが大切です。
外食では「塩分」が最大の落とし穴です
旅行の楽しみといえば、その土地ならではの食事です。
しかし、旅館やホテル、観光地のレストランでは、家庭料理より塩分が多い料理が少なくありません。
問題は一食ではなく、「朝・昼・夕」と塩分の多い食事が数日続くことです。
塩分を多く摂ると喉が渇き、水分を多く飲みます。
その結果、体に水分がたまり、
・体重が増える
・足がむくむ
・血圧が上がる
・心不全が悪化する
ことがあります。
実際に旅行から帰宅後、「2~3kg体重が増えた」という患者さんも珍しくありません。
旅行中は、
・汁物は飲み干さない
・漬物は控えめにする
・野菜料理を選ぶ
・味の濃い料理ばかり続けない
・腹八分目を心掛ける
ことを意識するだけでも、心臓への負担を減らすことができます。
利尿薬を自己判断で中止しないでください
旅行前になると最も多い質問の一つが、
「利尿薬を飲むとトイレが近くなるので、旅行の日は飲まなくてもいいですか?」
というものです。
確かに観光バスや長距離ドライブでは、好きなタイミングでトイレへ行けません。
しかし、利尿薬は体に余分な水分をためないための大切な薬です。
自己判断で中止すると、
・体重が増える
・足がむくむ
・息切れが悪化する
・心不全が悪化する
原因になります。
旅行の日だけ服用時間を調整できる場合もありますので、事前に主治医へ相談してください。
トイレを我慢し過ぎないことも大切です
旅行中はトイレを気にして、水分を控えてしまう方もいます。
しかし、脱水になると血圧が下がったり、腎機能が悪化したりすることがあります。
また、旅行中は便秘になりやすく、強くいきむことも心臓には負担になります。
トイレの場所を事前に確認し、余裕を持った行動を心掛けましょう。
薬は忘れず、少し多めに持参しましょう
薬は旅行日数ぴったりではなく、2~3日分多めに準備しておくと安心です。
お薬手帳も忘れず携帯しましょう。
飛行機では薬を預け荷物ではなく、手荷物にも入れておくことをおすすめします。
「今日はここまで」にする勇気も大切です
旅行では、「せっかく来たから全部見たい」という気持ちになります。
しかし、旅行の目的は観光地を制覇することではありません。
無理をして翌日動けなくなったり、旅行後に体調を崩したりしては本末転倒です。
予定を詰め込み過ぎず、途中でカフェに入って休憩する、景色を眺めながらゆっくり過ごす、そのような時間も旅行の楽しみの一つです。
心臓病患者さんにとって一番大切なのは、「頑張らない旅行」です。
まとめ
心臓病があっても、多くの患者さんは旅行を楽しむことができます。
ただし、旅行では
・普段以上に歩く
・普段は上らない坂道や階段を上る
・重い荷物を持つ
・塩分の多い食事が続く
・トイレを我慢したり、利尿薬の服用に悩んだりする
など、日常生活にはない負担が重なります。
一つひとつは小さなことでも、それらが積み重なることで心臓には大きな負荷となります。
旅行を安全に楽しむためには、「せっかく来たから」と無理をするのではなく、自分の体調に合わせて休憩を取りながら過ごすことが何より大切です。
旅行は人生を豊かにしてくれる大切な時間です。心臓病とうまく付き合いながら、安全で楽しい思い出をつくっていただければと思います。
